自殺願望(前兆と予防方法)
物事に集中できず、小さな決断にも迷うようになります。記憶力も低下するため、高齢者の場合は、認知症と間違われることもあります。ここでは、自殺の前兆や予防について紹介します。
ほとんどの患者さんが自殺願望を抱く
うつ病では脳機能に障害をきたしますが、そのために善悪の判断がつかなくなり、自殺に走るわけではありません。うつ病の患者さんも、「自殺をしてはいけない。命を粗末にしてはいけない」ということを十分承知しています。それでも「死にたい」 という気持ちから抜け出せないほど追い込まれてしまうのです。
周囲の人は、自殺念慮を軽く考えてはいけない
ひと口に自殺念慮といっても、「そんな考えがふっと頭をかすめた」という程度から、「実際に、具体的な方法を考えた」「今すぐにでも死にたい」という段階までまちまちです。すぐにでも自殺をするおそれがある場合は、入院が必要になります。
うつ病の苦しみを知らない人は、「自殺するという人に限って死なない」などといいますが、それは思い違いです。もう一度いいますが、うつ病はきわめて自殺率の高い病気です。このことを患者さんだけでなく、周囲の人にも十分心得ておいてほしいものです。
こんな人が自殺のハイリスク群
①一度自殺を企てたことがある
②大切な人や親しい人と離別し、強い喪失感に包まれている
③自分を支えてくれる家族や友人がいない孤独な人
④仕事上のトラブルや、多額の信金などが要因で発症した人
⑤自分を責める気持ちがとても強い
⑥不安や焦りが強く、イライラして落ち着かない
⑦将来にまったく希望がもてない
⑧アルコール依存症や薬物依存症を併発している
回復の兆しが見えた頃の自殺に注意
なぜ、回復しはじめた頃かというと、うつ状態のどん底にいるときは 「自殺」という行動を移す気力もないため、自殺念慮があっても、行動には移せません。少しよくなり、体が動くようになったときに、階段を昇ってビルの屋上に上がる、首吊りの準備をするなどして、自殺をくわだててしまいます。
自殺者全体の約6割がうつ病やうつ状態にある
平成16年の国内の自殺者は3万2、325人で、平成10年から3万人を下回ることはありません。このうちの約6割がうつ病を発症していたり、うつ状態だといわれます。
こうした中で、働く人の自殺が増えていて9000人を超える状況にあり、そのうちの約70%以上が「うつ状態やうつ病」から自殺に至るとみられています。このように、うつ病と自殺はきわめて関わりが深く、対応には細心の注意が必要です。
最後まで油断しない
傍目には「元気になってきた」と見える回復期でも、本人は「再発したらどうしよう」といった不安に陥ることがあります。周囲の人は、回復してきたと思っても「もう少しだ、がんばろう」など、プレッシャーをかけることはいわないで「今はウオーミングアップの時期だから」というように、本人を孤独にさせないような言葉かけをすることが大切です。
自殺の前兆を見逃さない
「すまないな、迷惑ばかりかけて」などというのも自殺念慮の兆候です。こうした言動が見られたとき、「何バカなことをいっているの」などと軽はずみなことをいうと、自殺に追い込んでしまうことがあります。
身辺整理をはじめたときも要注意
また、古いアルバムを整理したり、大切なものを人にあげるなどして身辺整理しはじめたときも、危険です。こうしたことを合わせて自殺の前兆を感じたら、主治医に相談し、自殺をとどめる方策をとらなければなりません。入院治療が必要なこともあります。
自殺が本人の問題だけではないことを認識させる
もしも、自殺をにおわせるような言動があったなら 「あなたがいなくなってしまったら、私はどれだけ幸いか」というように、本人だけの問題ではないことを認識させます。うつ病になる人は、まじめで責任感の強い人が多いですから、自分が死ぬことによって悲しむ人がいることを知れば、思いとどまることもあります。
また「今のその気持ちは私がいったん預かっておくから」というように受け止めてあげることも大切です。以下の自殺を予防するための7か条を参考にして対処してください。
自殺を予防するための7か条
No.1 | 「罪深い・価値のない人間」と考えることは、性格などのためではなく、病気のためであることを知らせる |
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No.2 | 「消えてなくなりたい」「生きている価値がない」といい出したら、自殺願望を抱いている証拠。目を離さないようにする |
No.3 | 自殺願望は病気が原因であることを理解して 叱咤激励は避ける |
No.4 | 「1人で悩まないでいつでも相談するように」 といってあげる |
No.5 | 「自殺」「死」を口に出したら、躊躇しないで 主治医に相談をする |
No6 | 「自殺はしない」と約束させる。ただし、数日間しか効果がないので、くり返し約束させる |
No.7 | 「ひとりで孤立しているのではなく、いつも気にかけてくれる人が必ずいる」ことを認識させる |