老年期のうつ病
いらいらしたり、口やかましくなる
老年期はうつ病にかかりやすい年代でもあります。体のさまざまな機能低下に加えて、親しい人との別離などがふえてきます。これらが心の不調を引き起こしやくします。
老年期のうつ病の症状と特徴
これらのいくつかのことが重なって、生きがいをなくしてしまう人もいます。このような老化、別離などは、心にも大きく影響します。ささいなことで精神のバランスをくずしてしまいがちです。その結果、うつ病になってしまう高齢者が多く見かけられます。高齢者の精神疾患の中で、最も多くみられるのはうつ病であるといわれています。
老年期のうつ病の症状では、次のような特徴が指摘されています。
●ほかの世代の症状にくらべると、著しい憂うつな気分はそれほど前面に出ることがない。
ことさらいらいら感や焦燥感、不安感などが生じやすく、このため落ち着かない様子をみせたり、じっとすわっていることができなくなったりする。
●ちょっとした体の不調が気になって、それにとらわれてしまう、心気症状が目立つ。精神面よりも体の症状のほうが多くみられる傾向がある。
●特に痛みや腹部の不快感を訴えることが多く、その訴え方もおおげさで、ヒステリックな感じさえする。
●以上のような体の症状について、つらさを訴える傾向がある。
●がみがみ口うるさくなる。
●食欲が低下して、体重も減少する。
●妄想を伴うことがある。
●体力が低下するので、横になっていることが多くなり、その結果、運動不足になってさらに体力が低下する。それとともに気分も落ち込み、それが悪循環となっていく。
以上のように、高齢者のうつ病の症状は、憂うつな気分よりも、体の不調や痛みを口うるさく訴えたりすることが多いため、ちょっとみただけではうつ病とは思えないことが多いといわれます。また、妄想を伴うこともあるのが、高齢者の症状の特徴です。主に「被害妄想」「罪業妄想」「心気妄想」、あるいは「貧困妄想」といった妄想です。また、自殺を考える人が多いことも心配です。高齢者の場合は不安や焦燥感が強いだけに、実際に自殺をはかってしまうこともあるので注意が必要です。
うつ病か認知症か区別しづらい
口数が減り、行動や反応が鈍くなるなどの症状のほかに、物忘れがひどくなったり、著しい場合には、いま自分がどこにいるのかがわからなくなることさえあります。実は、これらのうつ病の症状は、「認知症」と非常によく似ているのです。このため、うつ痛の場合は「 仮性痴呆」と呼ばれます。
自分がどこにいるのか、あるいはまわりにいる人などを正しく認識する能力を「 見当識」と呼びますが、この機能がきちんと働かない状態を失見当識( 見当識障害)といいます。これはうつ病ばかりでなく、実は認知症によくみられる症状でもあります。また、記憶障害の症状も、双方にみられます。
認知症と仮性痴呆との見分けはむずかしいとされています。ただ、うつ病の場合、記憶障害は比較的急激にあらわれるようです。また、認知症では病状が進んでいきます。それにしたがって、自分が病気であるという自覚、つまり病誠も失われていきます。これに対し、うつ病では症状の進行はありません。また記憶力の低下などにたいへん悩み、そうした症状を隠そうとせずに、むしろ過剰ともいえるような態度で訴えようとする傾向がみられます。仮性痴呆は、うつ病が治ってしまえば、症状も改善していきます。「仮性」の名がつくゆえんです。
認知症とは
認知症には、アルツハイマー型の認知症と脳血管性の認知症とがあります。
アルツハイマー型の認知症
脳の細胞が萎縮していくもので、それに伴って徐々に認識機能が低下していきます。脳にβアミロイドという異常なタンパク質が沈着して老人斑ができることや、変性した神経線維束(神経原線維)ができることなどが特徴です。はじめは物忘れから始まり、進行につれてうつ状態や不安などの精神症状、妄想や徘徊などのような問題行動も出てきます。末期には、精神機能の障害に加え、体も衰弱していき、寝たきりの状態になります。こうした経過は急激に進むというよりも、何年もかかってゆっくりと進んでいくことが多いといわれます。
アルツハイマー型の認知症の原因は、まだわかっていません。根本的に治す薬も開発されていませんが、進行を抑えるアリセプトなどの薬が使用されています。
脳血管性の認知症
脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)によって、脳の神経細胞や組織が広い範囲で障害を受けて起こります。障害を受けた場所や大きさなどで、症状も変わってきます。
初期は物忘れが目立ちます。症状の進行とともに、見当識の障害もみられ、理解力や判断力も低下。被害妄想などもあらわれます。アルツハイマー型とくらべると、発症は急激で、また知的機能の一部は保たれていることが特徴です。治療は、まず脳血管障害の治療に重点がおかれます。